僕が育った実家の風呂場は、いつもひんやりとしたタイルの匂いがした。窓の外には小さな坪庭が見え、子供の頃は、深い浴槽に肩まで浸かりながら、湯気で曇るガラスの向こうの景色を眺めるのが好きだった。だが、先日久しぶりに帰省した際、その懐かしい風呂場が、全く違うものに見えた。水道修理で漏水した川西の排水口を交換すれば80歳を過ぎた祖母が、壁に手をつき、そろりそろりと高い浴槽のまたぎを越えようとしている。その一挙手一投足に、僕は心臓が縮むような思いで目を凝らしていた。「危ないよ、手伝うから」。そう声をかけると、祖母は「大丈夫、大丈夫。毎日やってることだもの」と笑うが、その笑顔は僕の不安を拭い去ってはくれなかった。 「万が一、あそこで滑って転んだら…」。その考えが頭をよぎって以来、僕は仕事をしていても、ふと実家の風呂場の光景がフラッシュバックするようになった。両親に相談すると、二人も同じように心配していたが、祖母本人が「もったいない」「まだ使えるのに」と首を縦に振らないのだという。昔気質の祖母にとって、使えるものを交換することは、何よりもったいないことなのだ。横浜市で洗面所専門チームが水漏れを直して、僕には分かっていた。これは、単なる「もったいない」という話ではない。祖母の安全と、家族の安心に関わる、未来への投資なのだと。僕は、祖母を説得し、浴槽を交換することを固く決意した。これは、僕から祖母への、少し早めのプレゼントだ。 業者選びは慎重に行った。単に価格が安いだけでなく、介護リフォームの実績が豊富で、私たちの拙い要望にも親身に耳を傾けてくれる会社を探した。数社と話をする中で、あるプランナーさんが「おばあ様が一番使いやすいことが、何よりも大切ですからね」と言ってくれた時、この人になら任せられると確信した。彼のアドバイスを受けながら選んだ新しい浴槽は、僕たちが今まで使っていたものとは全くの別物だった。またぎの高さを極限まで低くし、浴槽の底には滑り止め加工が施されている。浴槽の縁は、立ち上がる時にしっかりと掴めるようにデザインされ、壁には頑丈な手すりを設置することにした。さらに、お湯が冷めにくい高断熱の素材を選ぶことで、冬場のヒートショックのリスクを軽減する配慮も加えた。 工事が終わり、真新しいバスルームがお披露目された日、祖母は目を丸くして立ち尽くしていた。明るく、清潔で、何より全ての設備が彼女の安全のために設えられている。僕は少し緊張しながら、祖母に一番風呂をすすめた。しばらくして、風呂場から聞こえてきたのは、これまで聞いたことがないほど嬉しそうな祖母の声だった。「ああ、極楽だねえ。足が楽に伸ばせて、立つのが怖くないよ。ありがとう、本当にありがとう」。その言葉を聞いた瞬間、僕の目から熱いものがこみ上げてきた。ああ、そうだ。僕はこの「ありがとう」が聞きたくて、このリフォームを決めたんだ。 浴槽交換は、単に古い設備を新しくする作業ではなかった。それは、大切な家族の安全を守り、日々の暮らしから不安を取り除き、そして心からの笑顔を生み出す、最高のコミュニケーションだった。あの日、ヒヤリとした光景を見た僕の不安は、今、祖母の満面の笑みと、実家全体を包む温かい安心感へと変わっている。もしあなたが家族のためにリフォームを考えているなら、ぜひその一歩を踏み出してほしい。その先には、お金では決して買うことのできない、かけがえのない喜びが待っているのだから。